2026年9月、ニューヨーク市は公立学校における生成AIの新しい方針を発表しました。幼児教育から8年生までは、生徒向け生成AIを原則停止する1年間のモラトリアム。一方、高校では承認されたツールの限定利用や実証、AIリテラシー教育を進めます。
これは単純な「AI全面禁止」ではありません。発達段階や学習目的に応じて、AIとの距離を考え直す試みです。けれど、このニュースが投げかける問いは、学校でどこまでAIを使わせるかだけにとどまりません。
問題は、「禁止か活用か」の二択ではない
AIを使えば、新しい可能性に早く出会えます。分からないことを質問し、考えを整理し、異なる視点を得ることもできます。一方で、使い方によっては、自分で考える前に答えを受け取る装置にもなります。
だから議論すべきなのは、AIが良いか悪いかではありません。どの段階で、何のために、どのように使うのか。そして、AIを使わずに考える時間をどこに残すのかです。
自分の中でじわじわ育てていく前に、
外から「答えらしいもの」が洪水のように流れ込んでくる。
情報が増えるほど、本質が見えなくなる
今のAIをめぐる情報には、「これができる」「こう使えば速くなる」「AIなら全部やってくれる」という言葉があふれています。知りたいことへすぐアクセスできる、便利な時代です。
しかし、答えの候補が増えすぎると、自分が本当は何を知りたかったのかさえ見失うことがあります。理解が追いつかないまま次の情報へ進み、誰かの結論を自分の考えのように受け取ってしまう。情報を得る速さと、考えが育つ速さは同じではありません。
遠回りの中でしか育たないものがある
本来、知識や技術は、疑問を持ち、調べ、試し、失敗し、もう一度考える中で少しずつ身についていきます。一見すると非効率なこの時間に、自分なりの判断軸がつくられます。
なぜ違ったのか。別の方法はないか。そもそも問いの立て方が間違っていたのではないか。すぐに正解へたどり着けない経験が、思考力、想像力、粘り強さを育てます。
AIで遠回りをすべて取り除いてしまえば、成果は早く得られるかもしれません。でも、その人自身が次の問いに向き合う力まで育つとは限りません。
AIは、思考を奪うことも、深めることもできる
AIに完成した答えだけを求めれば、考える過程を短絡できます。一方で、自分の仮説への反論を求めたり、見落としている視点を挙げてもらったり、考えを言葉にする相手として使えば、思考を深められます。
違いを生むのは、AIの性能だけではありません。使う人が問いを持っているか、出てきた答えを疑えるか、自分の経験や価値観と照らして選べるかです。
AIを使いこなすための、人間側の力
これから必要になるのは、単なる知識量や操作方法だけではありません。
- 分からないことを、そのままにせず問う習慣
- もっともらしい答えを、一度立ち止まって疑う力
- 複数の可能性から、自分なりに選ぶ判断軸
- まだ存在しないものを思い描く想像力
- 自分の選択を言葉にし、責任を持つ姿勢
AIの能力が高くなるほど、これらは重要になります。AIは可能性を広げてくれますが、どの可能性を選び、何につなげるかまでは、人間に委ねられているからです。
教育は「答え」より「過程」を見られるか
これまでの教育では、正しい答えに到達できたかが評価の中心になりがちでした。けれどAIが答えを出せるなら、結果だけでは、その人が何を理解し、どう考えたのかは見えません。
これからは、どんな問いを立てたのか、何を根拠に選んだのか、途中で考えをどう変えたのか、AIの提案をなぜ採用または棄却したのか。思考の過程そのものを学び、語り、評価する必要があります。
AIを使わない時間と、AIと一緒に考える時間。その両方を意図的につくることが、AIの存在する世界における教育になるのだと思います。
これは、子どもたちだけの問題ではない
私たち大人も、すでに同じ環境にいます。企画、文章、デザイン、経営判断。考え始める前にAIへ聞き、出てきた案を整えるだけで仕事を終えていないでしょうか。
速さが必要な場面では、AIは頼もしいパートナーです。けれど、何を目指すのか、誰のためにつくるのか、違和感はどこにあるのか。プロジェクトの核になる問いには、自分で立ち止まる時間が必要です。
Human-led / AI-poweredという選択
SUKETTが大切にしているHuman-led / AI-poweredは、人間が全部を手作業で行うという意味ではありません。AIの力を使いながら、目的、感性、判断、責任を人間の側に残すという考え方です。
AIに任せる場所と、人が考え抜く場所を分ける。答えをもらうだけでなく、問いを磨くためにAIを使う。便利さによって思考を手放すのではなく、より深く考え、より多く試し、まだないものを生み出すために使う。
AIが答えを出せる時代だからこそ、
何を問い、何を選び、何を信じ、何を生み出すのか。
考える力は、これからの創造する力になる
「答えを出す能力」の価値は、相対的に変わっていくかもしれません。その代わり、まだ答えのない問いを見つけ、異なるものをつなぎ、自分なりの意味を与える力は、ますます重要になります。
AI時代になればなるほど、人間側のクリエイティビティが必要になる。学校だけでなく、仕事でも、地域でも、日々の生活でも。AIが存在する世界で、それでも自分で考えられる人間をどう育てるか。それは、今を生きる私たち全員への問いです。
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